Episode 05

グランマ・ビクトリーがすべてを説明する

なぜ彼女の名前はスポーツなのか。 ついに、名前をつけた祖母が語ります。 五輪の夢、金色の朝、そして家族会議の敗北を。

Opening Scene

校門の前に、名前の原因が立っていた

放課後の校門前に、グランマ・ビクトリーは立っていました。 片手には買い物袋。 もう片方の手には、なぜか小さな旗。 その旗には、赤い文字で「勝」と書いてあります。

スポーツは、その旗を見た瞬間、少しだけ目を細めました。 普通の祖母は、孫を迎えに来る時に旗を持っていないはずです。 けれど彼女の祖母は、普通の祖母ではありません。 名前を「スポーツ」にした人です。

グランマ・ビクトリー:「スポーツ!」

スポーツ:「おばあちゃん、その旗は何。」

グランマ・ビクトリー:「応援。」

スポーツ:「何を?」

グランマ・ビクトリー:「人生を。」

スポーツ:「範囲が広い。」

ミナは隣で、すでにクリップボードを構えていました。 今日の出来事は、普通のメモでは足りない。 彼女はそう判断していました。

ミナ:「グランマ・ビクトリーさん、今日は名前の由来を聞いてもいいですか。」

スポーツ:「ミナ、ためらいがない。」

グランマ・ビクトリー:「もちろん。名前には、物語があるのよ。」

スポーツ:「できれば短い物語でお願いします。」

グランマ・ビクトリーは、にっこり笑いました。 その笑顔は、絶対に短く終わらない人の笑顔でした。

なぜグランマ・ビクトリーなのか

まずミナが、基本的なところから聞きました。

ミナ:「あの、グランマ・ビクトリーという呼び名は……」

グランマ・ビクトリー:「私が自分で決めたの。」

スポーツ:「家族は誰もそう呼んでません。」

グランマ・ビクトリー:「でも、心では呼んでいる。」

スポーツ:「呼んでない。」

グランマ・ビクトリーは、若いころから勝負ごとが好きでした。 ただし、必ずしも強かったわけではありません。 くじ引きは外れます。 ビンゴは一列足りません。 町内運動会では、パン食い競走でパンを落としたこともあります。

それでも彼女は、自分の人生を負けたとは思っていませんでした。 何度失敗しても、次の朝には「今日は勝てる気がする」と言える人でした。

グランマ・ビクトリー:「勝つ人というのはね、勝った人のことじゃないの。」

ミナ:「では?」

グランマ・ビクトリー:「また立つ人のことよ。」

スポーツ:「急にいいこと言わないで。対応に困る。」

夢に出てきた五輪

グランマ・ビクトリーが、少し遠くを見るような顔になりました。 彼女の中では、もう校門前ではなく、過去の朝に戻っているようでした。

スポーツが生まれる少し前のことです。 グランマ・ビクトリーは、夢を見ました。 夢の中には、大きな競技場がありました。 観客席は光でいっぱいで、どこかから音楽が聞こえていました。 空には旗が揺れ、中央のトラックには、まだ誰も立っていませんでした。

そこへ、小さな女の子が現れました。 その子は走っていません。 跳んでもいません。 ボールも持っていません。 ただ、真ん中に立って、困った顔をしていました。

グランマ・ビクトリー:「その子がね、言ったのよ。」

スポーツ:「夢の中で?」

グランマ・ビクトリー:「そう。『私、ここにいていいの?』って。」

ミナ:「それで?」

グランマ・ビクトリー:「私は言ったの。『もちろん。ここは、勝つ人だけの場所じゃない。来た人の場所よ』って。」

スポーツは、少し黙りました。 その話は、思っていたよりちゃんとしていました。 もっと変な理由だと思っていました。 たとえば、テレビでたまたまスポーツニュースを見ていたとか、健康食品の名前と間違えたとか。

グランマ・ビクトリーは続けました。

グランマ・ビクトリー:「その時、競技場の上に、金色の文字が出たの。」

スポーツ:「あ、急に変な方向に戻った。」

ミナ:「金色の文字には何と?」

グランマ・ビクトリー:「SPORT。」

スポーツ:「英語だったんだ。」

金色の朝

夢から覚めた朝、窓の外はきれいに晴れていたそうです。 カーテンの隙間から光が入り、部屋の壁が少し金色に見えました。 グランマ・ビクトリーは起き上がり、家族の誰よりも早く台所へ行きました。

そして、紙に大きく書きました。

この子の名前は、スポーツ。

その紙を見た家族は、最初、冗談だと思いました。 次に、寝ぼけているのだと思いました。 最後に、本気だとわかって、家族会議になりました。

スポーツ:「家族会議になったの?」

グランマ・ビクトリー:「もちろん。大人たちは、未来を見る目が弱い時があるから。」

スポーツ:「大人しかいなかったよね。」

グランマ・ビクトリー:「私は未来側だったの。」

家族は反対しました。 「もっと普通の名前がいい」 「学校で困るかもしれない」 「毎回説明が必要になる」 「本人がスポーツ嫌いだったらどうする」

どれも正しい意見でした。 とても正しい意見でした。 いまのスポーツは、その正しさを全身で知っています。

スポーツ:「その反対意見、全部当たってる。」

グランマ・ビクトリー:「でも、それだけでは名前は決まらないの。」

ミナ:「では、何で決まるんですか。」

グランマ・ビクトリー:「願い。」

名前に込めた願い

グランマ・ビクトリーは、旗を少し下ろしました。 その声は、いつもより少し静かでした。

彼女が「スポーツ」という名前に込めたのは、運動が得意になってほしいという願いだけではありませんでした。 むしろ、それは一番小さい意味でした。

彼女にとってスポーツとは、勝ち負けだけではありません。 転んでも立つこと。 うまくできなくても参加すること。 相手を認めること。 自分の番が来た時、怖くても一歩前に出ること。

グランマ・ビクトリー:「スポーツって、点数だけじゃないのよ。」

スポーツ:「それは、少しわかる。」

グランマ・ビクトリー:「勝つことより、場に立つこと。強いことより、続けること。」

ミナ:「だから、この名前にしたんですね。」

グランマ・ビクトリー:「そう。どんな場所でも、自分の名前に負けないで立ってほしかったの。」

スポーツは、何も言えませんでした。 いつもなら、すぐにツッコミを入れるところです。 「名前が重い」とか、「せめてミドルネームにしてほしかった」とか。

でも今は、少しだけ違いました。

たしかに名前は大変です。 毎日説明しなければなりません。 勝手に期待されます。 運動が苦手だと言っても、なかなか信じてもらえません。

それでも、名前の中に祖母の願いがあると知ると、 ほんの少しだけ、その名前の重さが変わった気がしました。

しかし、家族会議は荒れた

いい話になりかけたところで、グランマ・ビクトリーは急に明るい声に戻りました。

グランマ・ビクトリー:「でも家族会議は大変だったわ。」

スポーツ:「そこは想像できる。」

家族は、別の名前をたくさん提案しました。 やさしい名前。 かわいい名前。 古風な名前。 きれいな漢字の名前。 どれも良い名前でした。

しかしグランマ・ビクトリーは、動きませんでした。

家族:「スポーツは名前として強すぎる。」

グランマ・ビクトリー:「強い名前は、人生の傘になる。」

家族:「傘?」

グランマ・ビクトリー:「雨の日も、目立つでしょう。」

家族は説得しました。 グランマ・ビクトリーは説得されませんでした。 最終的には、誰かが疲れ、誰かが諦め、誰かが「本人が強く育てばいい」と言いました。

そうして、スポーツという名前は残りました。

スポーツ:「つまり、家族会議はおばあちゃんが勝ったの?」

グランマ・ビクトリー:「いいえ。」

ミナ:「違うんですか?」

グランマ・ビクトリー:「未来が勝ったの。」

スポーツ:「言い方で押し切ってる。」

スポーツの反論

スポーツは、腕を組みました。 祖母の話は少し感動的でした。 でも、本人として言いたいことはあります。

スポーツ:「でも、おばあちゃん。」

グランマ・ビクトリー:「何?」

スポーツ:「学校でけっこう大変です。」

グランマ・ビクトリー:「でしょうね。」

スポーツ:「でしょうねじゃない。」

スポーツは、ここ数日の出来事を説明しました。 自己紹介で教室が止まったこと。 コーチ先生が勝手に才能を見つけたこと。 じゃんけんに勝ってキャプテンになったこと。 遅刻しそうで走ったら短距離走の話になったこと。 犬がボールを盗んで審判になったこと。

グランマ・ビクトリーは、すべて聞いてから、大きくうなずきました。

グランマ・ビクトリー:「すばらしいじゃない。」

スポーツ:「どこが?」

グランマ・ビクトリー:「もう物語になっている。」

スポーツ:「私は平穏がほしい。」

グランマ・ビクトリー:「平穏は大切よ。でも、物語も悪くないわ。」

ミナは、その言葉を小さく書き留めました。

グランマ・ビクトリーの考え。
名前は、人生を少し物語にする。

名前を返したい日もある

スポーツは、少し低い声で言いました。

スポーツ:「名前を返したい日もあるよ。」

その言葉に、グランマ・ビクトリーはすぐに笑いませんでした。 ミナも、メモを止めました。

スポーツは続けました。

スポーツ:「みんなが勝手に期待する。勝手にできると思う。説明しても、謙虚だって言われる。」

スポーツ:「私は、ただ普通にしたい日もある。」

グランマ・ビクトリーは、静かに聞いていました。 それから、買い物袋を地面に置き、スポーツの目を見ました。

グランマ・ビクトリー:「そうね。それは、大変ね。」

スポーツは、少し驚きました。 もっと派手な答えが返ってくると思っていたからです。 「名前に勝ちなさい」とか、「旗を持ちなさい」とか。

でも祖母は、ただうなずきました。

グランマ・ビクトリー:「名前は願いだけど、荷物にもなる。持つのは本人だもの。」

スポーツ:「わかってたの?」

グランマ・ビクトリー:「少しはね。」

スポーツ:「少しなの?」

グランマ・ビクトリー:「全部わかっていたら、たぶん名前はもう少し短くしたわ。」

ミナが、ほんの少し笑いました。 スポーツも、つられて笑いました。

その名前との付き合い方

グランマ・ビクトリーは、スポーツの手に小さな旗を渡しました。 「勝」と書かれた旗です。 スポーツは、それを困った顔で受け取りました。

スポーツ:「これ、学校で持ち歩くの?」

グランマ・ビクトリー:「持ち歩かなくていいわ。」

スポーツ:「よかった。」

グランマ・ビクトリー:「心の中に立てておけばいい。」

スポーツ:「急に詩になる。」

グランマ・ビクトリーは言いました。 名前に勝たなくてもいい。 名前から逃げてもいい日がある。 でも、いつか少し元気な日に、自分の名前を自分の味方にできたらいい。

スポーツは、旗を見ました。 小さくて、少し変で、ちょっと恥ずかしい旗です。 でも、捨てたいとは思いませんでした。

スポーツ:「私、運動は得意じゃないよ。」

グランマ・ビクトリー:「知ってる。」

スポーツ:「キャプテンも向いてないかもしれない。」

グランマ・ビクトリー:「かもしれないわね。」

スポーツ:「でも、みんなが笑ってくれるのは、少しうれしい。」

グランマ・ビクトリー:「それは、すごい才能よ。」

その言葉は、コーチ先生の「才能」とは少し違いました。 走る速さでも、ボールの扱いでもありません。 場の空気を少し軽くする力。 困っているのに、人を笑顔にしてしまう力。

スポーツは、初めてその才能なら少しだけ信じてもいいかもしれないと思いました。

コーチ先生、当然現れる

いい雰囲気になったところで、背後から声がしました。

コーチ先生:「いい話だ。」

スポーツ:「いつからいたんですか。」

コーチ先生:「名前の由来あたりから。」

スポーツ:「ほぼ最初から。」

コーチ先生は、グランマ・ビクトリーに深く頭を下げました。

コーチ先生:「すばらしい命名です。」

グランマ・ビクトリー:「あなた、わかる人ね。」

スポーツ:「そこで意気投合しないで。」

ミナは、急いでメモを取りました。 グランマ・ビクトリーとコーチ先生。 この二人が同じ方向を向くと、かなり危険です。

危険な組み合わせ。
グランマ・ビクトリー:名前を信じる。
コーチ先生:才能を信じる。
スポーツ:逃げ場を探す。

コーチ先生は、感動したように言いました。

コーチ先生:「スポーツ。その名は、もはやチームの旗だ。」

スポーツ:「やめてください。おばあちゃんの旗だけで十分です。」

グランマ・ビクトリー:「旗、もう一本作ろうか。」

スポーツ:「作らないで。」

審判犬も当然来る

さらに、校庭のほうから軽い足音が聞こえました。 審判犬です。 今日はボールをくわえていません。 かわりに、どこかから拾った小さな黄色いタオルをくわえています。

ミナ:「犬まで来た。」

スポーツ:「なぜ大事な場面に全員集まるの。」

犬はスポーツの前まで来ると、タオルをぽとりと落としました。 そして「ワン」と鳴きました。

グランマ・ビクトリーは目を輝かせました。

グランマ・ビクトリー:「この子、応援しているわ。」

スポーツ:「たぶん、遊んでほしいだけ。」

コーチ先生:「いや、激励だ。」

スポーツ:「犬への解釈まで大きい。」

ミナは、今日の結論を書きました。

本日の結論。
スポーツという名前は、重い。
でも、少しだけ味方にもなる。
犬は、たぶん何も考えていない。

帰り道、名前が少し軽くなった

夕方、スポーツはミナと一緒に歩きました。 グランマ・ビクトリーは買い物袋を持って先に帰り、 コーチ先生は校庭へ戻り、 審判犬は黄色いタオルをまたどこかへ運んでいきました。

スポーツの手には、小さな旗がありました。 かばんの中にしまおうか迷いましたが、しばらく手に持ったまま歩きました。

ミナ:「少し、納得した?」

スポーツ:「全部はしてない。」

ミナ:「うん。」

スポーツ:「でも、少しだけわかった。」

ミナ:「何を?」

スポーツ:「名前って、説明じゃなくて、宿題かもしれない。」

ミナは、少し驚いた顔をしました。 それから、にこっと笑いました。

ミナ:「いいこと言った。」

スポーツ:「メモしないで。」

ミナ:「もうした。」

スポーツ:「速い。」

スポーツは空を見ました。 普通の日は、まだ遠いかもしれません。 明日もまた、誰かが何かを期待するかもしれません。 ボールが飛んでくるかもしれません。 犬が走ってくるかもしれません。 コーチ先生がどこからか現れるかもしれません。

でも、今日は少しだけ違いました。

名前はスポーツ。 問題は、そこから始まった。 でも、物語も、そこから始まったのです。

スポーツ:「明日は、普通の日になるかな。」

ミナ:「ならないと思う。」

スポーツ:「やっぱり?」

ミナ:「でも、少し楽しみでしょ。」

スポーツ:「……少しだけ。」

スポーツは、小さな旗をかばんにしまいました。 それから、少しだけ背筋を伸ばして歩きました。

Season One

最初の五話、完走。

自己紹介、偶然のキャプテン、遅刻、サッカーボール事件、 そして名前の由来。スポーツはまだ、運動が得意になったわけではありません。

けれど、少しだけ自分の名前と向き合い始めました。 そして、まわりにはもう、彼女の困り方を笑いながら応援する仲間がいます。

スポーツという名前の女の子のコメディポスター
Episode Notes

第5話の見どころ

名前の由来が明かされることで、スポーツという名前はただのギャグではなく、 彼女が少しずつ向き合っていく物語の中心になります。

1

祖母の願い

スポーツという名前は、運動能力ではなく、場に立つ勇気への願いでした。

2

名前は荷物にもなる

グランマ・ビクトリーは、名前の重さも認めます。そこが、この話のやさしさです。

3

少しだけ味方になる

スポーツはまだ困っています。でもその名前を、ほんの少しだけ受け止め始めます。

スポーツの世界の校庭と学校コメディ場面
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スポーツ、ミナ、コーチ先生、グランマ・ビクトリー、審判犬。 彼らの世界は、文字だけでなく場面でも楽しめます。

校庭、作戦会議、ボール事件、そして少し変な応援の風景。 Sport.co.jpの空気を、画像ギャラリーで見てください。